宮城野
名取川を渡って仙台に入ります。
五月四日の菖蒲葺く日、端午の節句の前日でありました。
旅の宿を探して、四五日とどまり滞在することにしました。
ここに絵描きの加右衛門という人がいて、なかなかの思いやりの有る人と聞いて、その者を訪ねてみることにします。
この者は、数年来にわたり、不確かな名所を調べていて、一日かけて親切に案内してくれました。
宮城野の萩が生い茂っていて、秋には美しいであろうということ。玉田、よこ野、つつじが岡はあせびが美しく咲いている頃です。
そして、日のひかりが届かないほど茂った松の林に入って、ここを木の下と言うと案内してくれました。昔もこのように露が深かったからこそ「御侍御笠を」と詠まれています。薬師堂、天神の御社などを参拝して、その日はすっかり夕暮れてしまいました。
その上に猶、松島、塩釜のところどころを絵に画いてくれたのです。
しかも、紺に染めた緒を付けた草鞋(わらじ)を二足旅の餞にと下さいました。
そこで、風雅なことに徹底するものとして、加右衛門の親切に喜んで感謝の気持ちを顕して一句詠んでいます。